よく見ればヌートリア

自分用の記録

11/20〜22「20202021」(劇団赤鬼)

 

11/20 20:20(DAY1)
11/21 20:20(DAY2)
11/22 20:21(DAY3)

 

 


一歩進む、と言うこと。

 

人生ゲームと言うものがあるけれども、実際の人生はルーレット回して何マス進む!みたいには上手くいかない。実際前に進む、一歩踏み出すってめちゃくちゃ難しくて、結局はずーっと同じマスで停滞してる時間の方が長いんじゃないかって思ってしまう。わたしは。

 

2020年。今年は特にそんな年だった。
そんな2020年があと1ヶ月と少しで終わる。2021年がやってくる。


そんな2020から2021へと移っていくこの時期に、この作品を見られてほんとによかったな〜と思う訳です。停滞してる時間の方が長いと言っても、いつかはそこから抜け出して次へ進まなくてはいけない。ずっとそこにはいられない。
人生とは、常に新しい景色を見る為にあるのだから。


20202021。ニゼロニゼロニゼロニイチ。
タイトルからしてもう今年やってこその物語だよな〜と思いつつ、これはわたしの個人的な感情もあるのかもしれないなと思った!でも例えばこれを数ヶ月後、数年後に見ていたらまた感じるものが違うのかもしれない。

 

 

ある劇団の、ある公演。
その本番前のシーンから物語は始まります。
まあこの「ある劇団」って言うのがそこはかとなくキャラが強くて、一筋縄ではいかなさそう。そんなとこがめちゃくちゃ好き。と、同時にベテランの人たちのキャラの濃さにほんのちょっと圧倒され気味な新人劇団員さんたちが凄く微笑ましくなってしまった。でもいつか、あの中で揉まれまくって彼らも同じように強いキャラを手に入れるのかもしれないな…強くなって欲しい(?)
おまけにZoom(かな?)でオンラインビューイングなる催しをしているファンの人たちも映るんだけど、まあこれがまた劇団の人たちに負けないくらいの濃さがあって…笑 濃い劇団員たちに濃いファン、最高だな…。


そんなそこはかとなくキャラの濃い劇団員たちの舞台裏パートと舞台上で上演される劇中劇が同時に展開されながら、物語は進んでいきます。
これがほんとに楽しい。し、凄かった〜!
舞台上で上演される劇中劇「風の旅人」は、ずしっとくるような重さのある、難解で複雑な群像劇。でも幕の裏ではとにかくドタバタのトラブル続き。そのテンションのギャップがお互いを引き立てあってて面白かったです。
劇中劇は舞台の上を客席のカメラから、舞台裏はカメラマンの方の持つ別のカメラから。時にはZoomの映像まで入ったり。こんなに色々駆使しているのに、各画面の切り替えがほんとにスムーズかつ違和感がなくて、配信公演と同時に映像作品を見たような気分にもなる。これが出来るのは配信だからこそだよなあ、と。まさにハイブリッド演劇と言う言葉そのもの。
そしてちょうどいいところで画面の切り替えが入っていくので、全くダレずにずっと見てられる。ほんとに凄い…。

先述した通り、舞台裏ではトラブルばかりです。
本番直前に劇団を去る人たちがいるわ、小道具は壊れるわ、出なくていいとこで出る人がいれば、一番大事な小道具持たずに出ちゃう人もいる。それをなんとかリカバリーしようとしてまたトラブルが起こって…と言う繰り返し。ずっと慌ただしくて、阿鼻叫喚としか言いようのない様相を呈している。
だけど客席から見てると絶対にわからない舞台裏を、ほんのちょっと覗き見できたようで嬉しかったなあ。同時にわたしたちが普段客席からただただ楽しんでいる演劇は、たくさんの人の山ほどの準備や苦労の先に生まれたものだって改めて思う。いや、当たり前のことなのだけど。感謝感謝。

印象に残ったシーン。
一番最初のトラブル、新人劇団員の内の三人が劇団を去るところ。
人間って難しいよなあとしみじみ思った。人の心はわからない。言葉の外にどれだけ優しい気持ちを込めようとも、それがいつだってちゃんと伝わるとは限らない。
もしかしたら彼らも一歩前に進みたくて、でもその場でずっと停滞しているように感じてしまっていて、そこから抜け出すために踏み出した一歩があれだったとしたら、心のどこかで完全には責めきれないよなと思ってしまう自分もいる(あくまで一観客の自分としては、のはなし)。
キツイこと言われて落ち込みまくって、でも「お前のことを思って言ってるんだよ」とか言われて、判ってるけど腑に落ちない、みたいな経験をしたことって多分誰しも一度くらいはあるんじゃないかなあ。わたしはめちゃくちゃあるので、「こんな時だけ優しいフリするんですね」って台詞にびっくりするほど感情移入してしまったんですよね。
そして去っていく三人の中の一人を演じていたのが推しの川上さんだった訳ですが、それがも〜〜〜めちゃくちゃよくて…。
最初の一言は小さく低めに抑えた声で、でもそこから続く二言目は色んなものをぶつけるように声を荒げる。簡単に諦めてしまった訳じゃなくて、耐えて向き合って、だけどなにか糸の切れてしまったような苦しさがめちゃくちゃあって、ああ〜…ってなってしまった。

この舞台はDAY1、DAY2、DAY3と全3公演の中で少しずつストーリーに変化があり、キャストさんの配置も微妙に変わっていたりします。
DAY1とDAY3でそのポジションを演じたのが川上さんで、中日のDAY2は谷本さんが演じてらっしゃったのだけど、そこもやっぱりキャストの違いから来るイメージの違いが生まれていてよかった。川上さんはぶつけるように言葉を発するんだけど、谷本さんは微妙に声が震えて泣きそうな印象を抱いてしまって、それもまた別の方向から心をグッと握られてしまったよね。
だけど観客から見れば当たり前ながらみゆきさんがただただ罵倒したいだけでキツイ言葉を言ってるんじゃないってこともわかる訳で、余計にその伝わらない歯痒さにしんどくなるのです。やっぱり人間って難しい。「役つきたくてもつかれへん子だっておんのに」──舞台裏には、舞台上以上に複雑な感情があるんだろうなあ。

さて、嵐のようにドタバタしながらいよいよ「風の旅人」の幕が上がります。
先述した通りこの劇中劇がまた複雑なんだけど、2回3回と見たら「20202021」と言う作品そのものとしっかり繋がる部分も見えてくるし、あと実を言うとあの群唱とか…割と…好き…。
タイムトラベル系の群像劇。行くあても目的もなにもわからない男のほんの他愛のない一言や行動が、誰かの人生を確実に変えていき、その小さな変化はいつか世界を変えていく。
ラストの群唱の「あなたへの思いは尽きることがない」って一言が凄く心に残っている。そしてその言葉や思いが作品そのもののクライマックスへも繋がっていくようで、DAY3を見た後、それまで単なる「劇中劇」でしかなかった「風の旅人」が、綺麗に舞台裏と重なったような気がした。

劇中劇がタイムトラベルなら、「20202021」はタイムリープ。DAY1、DAY2、DAY3と少しずつ変化を遂げながら、そのループを抜け出すために進んでいきます。
DAY1はとにかくドタバタで、どちらかと言うと見てるこちらも次どうなるんだろう?って言うハラハラ感が強かったです。DAY2でもドタバタしてるのは変わらないんだけど、少しずつ光が射してきた印象を抱き、そしてDAY3でずっと広がってた霧がようやく晴れてトンネルを抜けたような清々しさを感じました。
ピタッとピースがはまったような感覚になるほどな、となりつつ、劇中劇もDAY1〜DAY2ではなかったシーンが見れたりして、これがあの飛ばしたシーンなのか〜!ってやっと見れたことになんだか感動してしまったり(どうでもいいけどあのシーン、台の上で小粋に踊ってる推しが好きすぎる)。なんか3日見たら不思議なことに既にあの劇団に驚くほど愛着が湧いてしまっていて、もう、わー!やっと見届けられた!って喜びが凄かったんだよなあ。

変化はあるんだけど、笑えるシーンは3日間ずっと笑えるままで、同じとこで何度も繰り返し笑ってしまう。特に好きなのは「あの血塗れ!!」。いやもう狂おしいくらい好き。血塗れて。実際なんも間違ってないんだけど。あと「睨み合った体でひたすら前後移動してるやんか」もめちゃくちゃ好き。何が好きって、あの言葉がシュールすぎて。
DAY3は何よりしれっといるクローバーミニがめちゃくちゃ好き。かわいい。ふ、増えてる!ってなった。かわいい。クローバーミニって…なに…?舎弟なの…?総理の側近トリオもあわあわしててかわいかった!総理!総理〜〜〜!!!???

皆さん魅力的で、たくさん笑えるところもあるのに、ラストは凄くしんみりする終わり方。だけどしんみりして寂しくなるだけじゃなく、爽やかで清々しい後味と余韻がふわっと心に残るような気持ちでした。
人はみんな誰かと関わりながら生きていて、ずっと他者に影響を与えながら生きている。「他人の人生に影響をもたらしてこそ、人生には意味がある」とはよく言ったものだけど、きっとみんな、気づかないうちに誰かに影響を与えているんだよな。DAY3のみゆきさんが去っていく三人にかけた言葉で未来が変わったように、たった一言やたったひとつの行動が、その後の誰かの人生を変えるかもしれないんだよな。それこそがまさに、「世界の一部である」ってことなのかもしれないなあ、と思った。そしてその事実はきっと、例えその人が目の前からいなくなったとしても、変わらず続いていくんだろうなあ。

ほんとに爽やかで、悩んだ分だけ一歩踏み出した先には光がある!って思わせてくれる作品でした。この作品に出逢えたことももしかしたら、後々わたしの中に何か変化を与えるのかもしれないな。少しでも前に進んでいかなきゃね。
2020から一歩踏み出した2021が、いいものでありますように!


(そう言えば震災から25年経ったんだな…とぼんやり)